交換っこ

彼女はタバコを吸う。 僕が彼女と付き合うより先に吸い始め、彼女は僕と付き合うようになってからタバコを吸い始めた。 最初は、頭が縮む感じがするとか、手足がしびれる、とか文句ばっかり言っていたのに、いつの間にか習慣になって、僕よりたくさん吸うよ…

天気予報

彼女は天気予報が嫌いだ。 一緒にテレビのニュース番組を見ていて、番組が天気予報を始めると彼女はそわそわし始める。 彼女の元にリモコンがあれば1から順に番号をまわされることになるし、僕の元にリモコンがあれば変えてくれと訴える。 僕がそのままにす…

仕事をやめた

彼女が突然仕事をやめた。 なんの前触れもなく、何の相談もなく、ただ「仕事をやめた」と彼女は言った。 ここのところの喫煙量の多さや、あれほどよく寝る彼女が僕よりも遅く寝て早く起きているから、何かおかしいとは感じていた。 彼女が辞めたといえば、も…

三年ネタロウ

彼女はいつまでもボーっとしている。 どれだけの時間、暇であってもお構い無しでボーっとしている。 本を読んでいるかと思えば、寝ていたり、寝ているなぁと気を抜いていても、もそもそと起きてきて、パソコンに電源をつけたりする。 でもほとんどは何もしな…

37度と5度の世界

彼女は体温が低い。 体温計で計ると大抵35度台後半で、風邪をひくとやっと36度になる。 僕は体温が高い。 大抵37度前半をたたき出すので、風邪をひけばもちろん38度を簡単にこえる。 彼女は寒がりで、僕は熱がり。 体温差を考えれば当然のことだ。 …

右と左

彼女は右と左がわからない。 後ろを向いたら逆なるような不確定なものはいらない、というのが彼女の言い分だ。 彼女は地図も東西南北で確認する。 僕の助手席の乗っていても、地図をくるくると回転させて、目的の方角に進んでいればいい、そういう感じだ。 …

僕は駅に居た。 バスの時間を待つために。 40分。 駅の前の花の植木鉢に、若い男が勢いよく吐瀉していた。 口から滝のように吐くというより、引力に負けて落ちるみたいに。 嫌な気持ちがこみ上げてくるが、仕方ない。今日は金曜日だ。 僕は手にしていた本を…

デート

彼女は人混みが嫌いだ。そして彼女は昼間が嫌いだ。 僕たち二人は土日しか休みが無いくせいに、彼女は土日の混雑した町に出るのにうんざりしてしまう。といって外に出ない。 僕たちのアパートは都内の大きなターミナル駅に出るのに、20分という位置にあるの…

ミートソーススパゲッティー

彼女は疲れたときにミートソーススパゲッティーを買ってくる。 どこのコンビニエンスストアでも必ず売っているミートソーススパゲッティーだ。 そういう時は大抵その日最後のバスで、24時をもう1時間以上も回っているから正確には次の日の一番最初のバスで…

第一ボタン

彼女はシャツのボタンを一番上まで締める。 コートもカーディガンも、ボタンのあるものは首元まで必ず締める。彼女は服を買わない。 数百円の古着を年に2回くらい季節の変わり目に買い物袋いっぱい買う。 あとは下着を何年か一回にまとめて入れ替える。 そ…

僕らのアパートの部屋の鍵

彼女はこのアパートの鍵を持っていない。 僕が部屋にいないと外でうろうろと時間をつぶし、僕が帰ってくるまで家に入らずに待っているのだ。 僕が部屋にいるときはぽんぽんと、ガス屋でもなく電気屋でもない彼女だけが出せるノックで僕に帰宅を知らせる。大…

文庫本

彼女はカバンを持たない。 会社に行くときも、友達に会うときも、外出して必要になるものはすべてポケットに入っている。 彼女は用意をしない。 携帯電話、財布、文庫本をたった一冊。ただそれだけの荷物なのに、毎朝僕にそれらがどこにあるのかを聞く。ポケ…