ミートソーススパゲッティー

彼女は疲れたときにミートソーススパゲッティーを買ってくる。
どこのコンビニエンスストアでも必ず売っているミートソーススパゲッティーだ。
そういう時は大抵その日最後のバスで、24時をもう1時間以上も回っているから正確には次の日の一番最初のバスであるけれども、そういう遅い時間のバスに揺られて帰ってきて、アパートとは逆の方向にあるコンビニエンスストアに少し遠回りをして寄って、電子レンジですでに温まったミートソーススパゲッティーを下げて帰る。
そんな日はいつもの片方の足を引きずる音にくわえて、ビニール袋のかさかさとこすれる音が加わることになる。
僕が鍵を開けると、彼女は一瞬だけ僕に体重を預けたあと、そのまま居間に向かってミートソーススパゲッティーを広げるのだ。
僕が用意した夕食を居間に運ぶ間に、すでに彼女の夕食は終了していて、ぼんやりとテレビを見ている。
僕の夕食に、彼女の食べきることができなかったミートソーススパゲッティーが加わることになる。
パルメザンチーズを忘れられた。
コンビニエンスストアの定員が、別封入になっているチーズを電子レンジのドアに貼り付けてそのまま忘れてしまうのだ。でも僕は彼女に使われること無くパルメザンチーズが必ずそこにとどまることを知っている。
今週はもう3度も僕の夕食が増えた。
彼女の茶碗に盛られた炊き立てのご飯は、そのまま炊飯器に戻り、翌日にはサランラップで梱包された後、冷凍庫で次の機会を待つことになる。
僕の夕食が終わると一緒にタバコを一本吸い、テレビを消して、ラジオのスイッチを入れる。

その後彼女は、その日にあったことを僕にぶちまけるようにひっきりなしに喋るか、僕に耳かきを要求かどちらかだ。
そのどちらでも、気が済むとそのまま眠ってしまう。
僕に必ずからだのどこかをつけて、無理な体勢で眠る。
体勢を帰ることのできない僕は、つけたままのラジオ深夜便を相手に、彼女が帰宅する以前から舐めるように飲んでいた焼酎を飲みきる。
深夜便は親密なラジオだ。読まれる手紙は過去の放送に関する、本当に聞いていた人にしか分からないような内容だし、話している人も手紙を書いた本人をしっている時もあるし、それは手紙の後に続く思い出話で分かるのだが、初めて手紙をくれた人に対しては初めてですねと話しかける。
僕はもう深夜便を聞きながら寝るということを制服を着ていたころから続けている。
あの時は僕と深夜便という関係だったが、少し前からそこに彼女が居る。
深夜便を聞きながら彼女の髪をなでると、僕は彼女を普段より深く受け入れることができる気がする。
深夜便のかかる時間は彼女と僕も彼女と僕も親密にしてくれる。毎日繰り返すこの時間が彼女を一番近くに感じることができる。
僕は食べきったミートソーススパゲッティーの容器にプラスチックの薄いフォークを収め、来るときに入っていた茶色のビニールの口を縛る。
僕は立ち上がれるように彼女をそっと僕のからだから離した後、テーブルの上をそのまま流しに収めた後、嫌がる彼女を無理やりにベットに移し、その日一日を終えるのだ。