三年ネタロウ

彼女はいつまでもボーっとしている。
どれだけの時間、暇であってもお構い無しでボーっとしている。
本を読んでいるかと思えば、寝ていたり、寝ているなぁと気を抜いていても、もそもそと起きてきて、パソコンに電源をつけたりする。
でもほとんどは何もしないでボーっとしている。
ボーっとしているときの彼女に何を言っても仕方がない。
うんうんと返事はするのだが、しばらくして、今なんていったの?と聞かれたりする。
コレはまだましなほうで、僕が何かを話しかけたことを認識しているけれども、ひどいときは「そんなことは聞いていない」「そんなことはいっていない」とちょっと前の発言を平気で撤回するので、困ったものだ。
今日も彼女はお昼前に起きてきて、一日ボーっとしていた。
たまにトイレに立ち上がりはするものの、寝ているのか何か考え事をしているのか、僕の聞いているラジオを聴いているのか、僕には全くわからない。
こうなったらトイレに立ち上がる以外ほとんど動きはないのだ。
今日彼女は一食も食事をしていないはずである。
飲み物も取っていない。
それなのにトイレにはもう5回も行った。
体のどこにそんな水分が隠されているのか、僕には見当もつかない。
明日か早ければ今夜、体の中の水分が足りなくなって、頭が痛い頭が痛いと彼女はきっと繰り返す。
僕はそれに備えて、体に吸収されやすいであろうスポーツ飲料を買いに出かける。
彼女と一緒に部屋に居ると、外とはまったく別の時間軸で過ごしている気になってしまう。
窓から漏れる明かりで、朝が来たことも、夕方になってまた夜になることも、わかってはいるのだけど、自分たちは絵永遠にそこにとどまっているという気になるのだ。
朝が来るのは外の世界のことでこの部屋には全く関係がないことなのよ、
夕方になって夜になっても私たちにはとってはなんの意味のないことなの。
彼女の存在がそういう気分にさせるのだ。
僕は休日にしかはけないスニーカーを履き、アパートのたったひとつのドアを開ける。
ドアは重く誰かに外から押されている錯覚をもつ。
少しばかり開いた隙間から西日が入り込む。
光にも水圧のようなものがあるのかもしれない。僕は思い切ってドアを押し開け、部屋の中に西日を受け入れる。
逃げ場を失った水が、新しいスペースを見つけたように遠慮なく光が差し込む。
ドアから振り返って改めて光を見るが、それは最初にドアを開けたときほどの強い印象はなかった。
流れ込んで一体化してしまえばなんてことはない。
買い物を済ませ部屋に戻ると、彼女は僕が部屋を出るときと全く同じ格好をしていたが、日曜日の夕方に必ず放送されるアニメを見ていた。
表情は相変わらずボーっとしたままだが、彼女にも、もう日曜日が終わってしまうことがわかっているのだ。
日曜日が終わってしまえば、また先週と同じように朝起きて仕事をして夜帰宅して、風呂に入ってまた寝る、そして日曜日が来ることを待ちわびるのだ。
空気が少しずつ暖かなくなって、雨の日が増える。ただそれだけのこと。